小児の風邪【自然経過と風邪薬について】

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こどもの熱の原因で、風邪は最も多いものです。

風邪を診断されたことのないお子さんは少ないでしょう。

一方で、「風邪をこじらせて肺炎になった」「風邪と言われていたが別の病気だった」「風邪と言われたのに全然治らなかった」という親御さんもいらっしゃいます。『ありふれた』病気であるはずの風邪にここまで手こずるのはなぜでしょうか。

ひとつに、「風邪」という病気に対する認識のズレがあります。
その結果、治らないことへの不安、受診回数の増加、ドクターショッピング(複数の医療機関の受診)など、医療者と患者さんの双方にとって望ましくない行動に繋がっている可能性もあります。

風邪の診療及びホームケアにおいて、重要なのは『風邪』という病気の概念を医療者と保護者で共有することです。

そこで今回は、小児の風邪について解説します。

目次

風邪の定義とは

風邪、あるいは風邪症候群は医学的には「急性上気道炎」といいます。
わかりやすく言い換えると、『ほぼ自然治癒が見込める軽症の気道感染症』という定義(b)が臨床に即していると考えます。
以下で検証していきます。

こどもは風邪の子?

こどもは頻繁に風邪を引きます。「子供はかぜの子」といいますが、実は「風邪の子」だったのかもしれません。
1歳未満のこどもは、1年間に平均で6回以上風邪を引くという報告もあります。
小児の咳嗽診療ガイドライン2020には、「乳幼児は1年に6-8回風邪を引く」とあります。

1年間の風邪を引く頻度
参考文献:Lancet, 361:51-59, 2003.

ところが、風邪という病気の定義は、人によって感じ方が大きく違うように思われます。
医療者同士、あるいは医療者と患者さんの間でも認識が異なることは少なくないでしょう。
この『風邪』という病気の認識のズレが、風邪診療の難所かもしれません。

教科書による風邪の定義

小児科医のバイブル、ネルソン小児科学第19版には、以下の定義が記されています。

感冒(かぜ症候群)とは、鼻汁・鼻閉・咽頭痛を主症状とする急性ウイルス性疾患である。筋肉痛などの全身症状は乏しく、発熱はないかあっても軽度である

しかし、これは最も狭い定義と考えてよいでしょう。
咳が出る風邪もあれば、高熱が出る風邪もあります。これらを風邪ではないとは考えにくいでしょう。

咳や熱があったら風邪ではないのか

たとえば、以下のような場合を考えてみましょう。

2歳、男児。一昨日から咳、鼻水が出始めた。昨日の夜から38.0℃の発熱があり、今朝は39.0℃になった。
本人はけろっとしており、テレビを見たりおもちゃで遊んでいる。食事や水分はいつも通り摂れている。

このようなお子さんを見たら、「ああ、風邪だな」と思う方が多いでしょう。
「咳があるから」「高熱があるから」風邪ではない、というわけではなさそうです。

細菌感染があったら風邪ではないのか

ネルソンの定義では、風邪はウイルス感染のみによるものとされています。
しかし、教科書によっては「風邪の多くはウイルス感染である」(1)とある通り、文献によっては細菌感染による病気も風邪に含んでいるようです。

ちなみに、細菌とウイルスの違いについては岡本先生がわかりやすくまとめてくださっています。

結局、風邪の定義とは

患者さんにとって必要なのは、学問的な定義ではなく実用的な判断です。
ある文献では、風邪を『ほぼ自然治癒が見込める、軽症の気道感染症』と定義しています(2)
この定義が、臨床に即していて使いやすいのではないかと思います。

ポイントは、以下の2点です。

  • 自然に改善する
  • 軽症である

すなわち、『特別な治療を要しない』『入院を要するような状態でない』気道感染症、を風邪と呼んでいるわけです。
たとえば、細菌感染症であっても軽症の中耳炎などは抗生剤による治療を必要としません。

風邪とは、『ほぼ自然治癒が見込める、軽症の気道感染症』である

風邪の原因

風邪の原因はほとんどがウイルス

上記の定義を採用したとして、風邪の原因の9割がウイルスであることは変わりません(3)

ウイルスの種類割合
ライノウイルス30-50%
コロナウイルス10-15%
インフルエンザウイルス5-15%
RSウイルス5%
パラインフルエンザウイルス5%
アデノウイルス<5%
エンテロウイルス<5%
ヒトメタニューモウイルス不明
不明20-30%
風邪の原因になるウイルス
参考文献:Lancet. 361:51-59, 2003.

風邪の症状と自然経過

風邪症状全体の経過

風邪の症状はまず発熱から始まり、徐々に咳や鼻水などが出現して、1-2週間ほど続きます。

風邪の症状の推移
参考文献:Pediatrics 2013; 132(1): e262-280

ポイントは、熱の出始めは風邪らしい症状に乏しく、他の熱が出る病気と見分けがつきにくいということです。
熱が出てすぐに医療機関を受診しても、検査や治療の手段が乏しい理由はここにあります。

症状NICEガイドラインCDCガイドラインUpToDate
発熱3日間で改善
3週間で改善2週間以上持続8日目で50%以上が持続
鼻汁・鼻づまり1.5週間で改善2週間以上持続6日目で50%以上が持続
咽頭痛(喉の痛み)1週間で改善8日程度で改善
風邪の症状と持続期間
参考文献(4)

風邪の症状のうち、発熱は3日間程度で改善します。
一方で、咳や鼻水は1週間経っても半数程度しか改善せず2-3週間続いてもおかしくないと言えます。
では、個別にみていきましょう。

発熱

発熱は、風邪の15%にあり、最初の3日間で改善することが多いと言われています(4)
4日以上続く発熱では、風邪以外の病気を考える必要があるかもしれません。

咳の症状は、風邪症状の中で最も長引きます。
下の表を見ていただくとわかる通り、3週間以上経過しても35%の患者さんで症状が続いていることがわかります(5)

風邪に伴う咳の持続期間
~1週間
93%
~2週間
78%
~3週間
58%
~4週間
35%
~5週間
17%
~6週間
8%

咳は、持続期間によって急性咳嗽、遷延性咳嗽、慢性咳嗽に分類されます。

・急性咳嗽…3週間未満の咳
・遷延性咳嗽…3週間以上、8週間未満の咳
・慢性咳嗽…8週間以上の咳

急性咳嗽が「3週間未満」と定義されているのも、一般的な風邪の咳でも3週間程度続く可能性があるためと思われます。

鼻水・鼻づまり

風邪の鼻水は、感染初期には透明な色調の漿液性鼻汁で、数日後から粘り気があり色の濃い膿性鼻汁に変化していきます。
鼻水は50%以上が6日目まで続くと言われています(4)
咳ほどではないですが、熱が下がっても症状は続くことがわかります。

鼻水が風邪によるものか、アレルギー性鼻炎によるものかについては下記のほむほむ先生の記事もご参照ください。

咽頭痛

咽頭痛(喉の痛み)については、1日後に53%、2-3日後に35%程度が残ります(6)
咳や鼻水と比べて、咽頭痛は早期に改善していくと言えそうです。

発熱は3日以内に改善することが多い
咳、鼻水、のどの痛みは1週間で治るのは半分程度、2-3週間続くこともある

風邪の治療

ここまで、風邪は治るのに時間がかかることを解説してきました。
続いて、「風邪を治すにはどうしたらいいか」「早く治す方法はあるのか」について解説します。

風邪の治療薬はない

初めに結論を述べると、風邪を早く治す、症状を抑えられるような薬剤は現状ありません。

風邪で受診すると、いつもたくさんお薬をくれますが…?

これまで、慣習的に処方されてきた薬剤はありますが、
医学的に風邪に有効であるというエビデンス(科学的根拠)の
ある薬剤はごく限られています。

まず、風邪の治療の基本は対症療法です。
対症療法とは、病気の原因を取り除くのではなく、症状を軽減させる治療のことです。
対症療法の対義語は、根治療法や原因療法と言われるもので、病気の原因そのものを取り除く治療です。

・対症療法…症状を軽減させる治療
・原因療法…病気の原因を取り除く治療

例:虫歯に対して痛み止めを使うのは対症療法、虫歯を抜くのは原因療法

風邪の原因療法は現実的に不可能

風邪に対して原因療法が困難なのは、原因となるウイルスが200種類以上と極めて多いからです。
実は、現存する抗ウイルス薬はインフルエンザ、ヘルペス、B型肝炎、C型肝炎など数えるほどのウイルスに対してしか存在しません。

そのため、風邪(インフルエンザを除く)に対しては対症療法を行うしかないということになります。

薬物療法と非薬物療法

風邪に対しては、薬物療法と非薬物療法があります。
風邪のお子さんに対して、薬を処方されたことがないという方はほとんどいないでしょう。
また、家庭ごとに様々なホームケアも行われていることと思います。

ここでは、風邪に対する薬物療法と非薬物療法をエビデンスに基づいて解説します。

解熱剤

小児で使える解熱剤は、アセトアミノフェンとイブプロフェンの2つのみです。
アセトアミノフェンは、商品名としてはカロナール、アンヒバ、アルピニーなどが該当します。

アスピリンはライ症候群ジクロフェナクナトリウム(ボルタレンなど)メフェナム酸(ポンタールなど)はインフルエンザ脳症との関連が指摘されており、禁忌となっています。

アセトアミノフェンの使用により、以下のような効果が期待されます。

・使用して2-3時間で解熱効果が表れる
・解熱効果は1℃~2.5℃程度
・使用して6-8時間で解熱効果は消失する

また、解熱剤を使用することで、風邪の期間は延長も短縮もしないという報告があります(7)
熱性けいれんの予防という意味では、害はないまでも積極的に推奨する根拠は弱いようです。

鎮咳薬

鎮咳薬(咳止め)には、麻薬性と非麻薬性の薬剤があります。
麻薬性の薬剤にはコデイン、非麻薬性の薬剤にはデキストロメトルファンやチペピジンなどがあります。

・麻薬性鎮咳薬…コデイン(コデインリン酸塩、カフコデ、セキコデ、リンコデ)
・非麻薬性鎮咳薬…デキストロメトルファン(メジコン、アストマリなど)、チペピジン(アスベリン)

このうち、麻薬性鎮咳薬であるコデインは呼吸抑制などの重篤な副作用があり、2019年からはコデインリン酸塩を含む医薬品は12歳未満の小児へは禁忌となりました。

コデインリン酸塩水和物又はジヒドロコデインリン酸塩を含む医薬品の 「使用上の注意」改訂の周知について(依頼)

そして、コデイン(8)、デキストロメトルファン(8)は小児の咳嗽に対して有効であるというエビデンスは乏しく、コデインは80%程度、デキストロメトルファンで10%程度の副作用の出現率があると報告されています(9)
チペピジンは、有効性を検証した報告が少なく、2019年の研究ではむしろ使わない方が咳がよくなったという結果となっています(10)

すなわち、科学的に効果の実証されている咳止めはないと言ってよいでしょう。

一方で、ハチミツが咳に有効であるという報告はいくつかあります。
ただし、1歳未満の児にハチミツを与えると乳児ボツリヌス症の危険があることに注意しましょう。

去痰薬

去痰薬(痰切り)として処方される薬剤で多いものが、カルボシステイン(ムコダインなど)とアンブロキソール(ムコソルバン)です。
カルボシステインは痰や鼻水をサラサラにして出しやすくする薬で、アンブロキソールは気道粘液の分泌や線毛運動を促進して痰の排泄を促す薬です。

カルボシステインは、2013年のコクランレビュー(11)によれば、1970-80年代の3つ程度の研究でしか検証がないようです。
2歳以上の小児においては比較的安全に使えそうですが、有効性については慎重になる必要がある、という結論です。
というのも、カルボシステインが処方される病気が風邪などの自然によくなる病気が多いため、処方されなくともよくなったのかはわからないためです。

また、イタリアやフランスなどの国では、2歳未満の小児に対しては禁忌となっています。

アンブロキソールについては、2014年のコクランレビュー(12)では、対象となる研究は1つのみであり、有効性の判断は難しいと言えるでしょう。

去痰薬については、2歳以上の小児に対してカルボシステインは有効かもしれない、という結論になりそうです。

抗ヒスタミン薬

抗ヒスタミン薬は、鼻水止めとして処方されることの多い薬剤です。花粉症・アレルギー性鼻炎の患者さんにもよく使われます。
第一世代と第二世代があり、主な違いは鎮静性です。第一世代の抗ヒスタミン薬は脳へ移行しやすく、眠気や集中力の低下といった副作用が起こりやすくなっています。

・第一世代…ペリアクチン、ポララミン、アタラックスP、セレスタミンなど
・第二世代(鎮静性)…ザジテン、セルテクトなど
・第二世代(非鎮静性)…アレジオン、アレロック、ザイザル、ジルテック、アレグラ、クラリチンなど

スイスの研究で、2-15歳の小児に対して第二世代の抗ヒスタミン薬が風邪の症状緩和に有効かを検討したランダム化比較試験があります。

抗ヒスタミン薬プラセボ
風邪症状の改善までの日数4.0日5,2日
鼻汁の重症度が50%低下するまでの日数3.4日5.1日
7日後に無症状であった人の数18人(79%)12人(46%)
抗ヒスタミン薬(アステミゾール)による風邪症状への有効性
参考文献:Rev Med Suissue Romande. 1998; 108:961-966

この研究では、抗ヒスタミン薬は風邪に対して有症状期間の短縮効果はありそうです。
しかし、2015年のコクランレビューでは、以下のように結論付けられています。

『抗ヒスタミン薬は、発症1日目、2日目において症状全体の重症度を改善するが、中長期的な効果はない。また、鼻汁、鼻閉、くしゃみなどの症状の緩和には効果がない。小児における抗ヒスタミン薬の有効性には根拠がなく、風邪に対する抗ヒスタミン薬の処方や購入を支持する根拠は不十分である。』

Antihistamines for the common cold. Cochrane Database Syst Rev. 2015: CD009345

抗ヒスタミン薬が有効であるとするには、研究が不十分なようです。

さらに、抗ヒスタミン薬には熱性けいれんと関連したリスクが示唆されています。
抗ヒスタミン薬を使用することで、熱性けいれんが起こりやすくなる(13)熱性けいれんの持続時間が長くなる(14)、といったリスクが指摘されています。

小児の風邪に対する抗ヒスタミン薬は、有効である根拠に乏しい一方で副作用のリスクは高いといえそうです。
抗ヒスタミン薬は市販の感冒薬の多くに含まれており、注意が必要です。

非薬物治療

WHO(世界保健機構)の風邪に対する治療では、非薬物治療として以下を提案しています(15)

・暖かい飲み物(お茶、スープなど)
・生理食塩水の点鼻
・熱で苦しそうな児への解熱剤(アセトアミノフェン)
・安全で鎮静効果のある治療(レモンティーなど;具体的な記述なし)

これらの治療は、試してみてもよいかもしれません。

まとめ

以上、小児の風邪についてまとめました。
風邪症状は思ったよりも長く続き、効果のある薬剤はほとんどありません。

風邪の自然経過を知ることは、保護者の方にとって重要と考えます。
「風邪で鼻水が1週間続く」「咳が2週間続く」といった経過が決して風邪の一般的な経過を逸脱していないことを知ると、安心感に繋がるのではないでしょうか。

どのような場合に、「風邪らしくない経過」と考えればいいかについては、後日記事にしたいと思います。

・小児の風邪は、「ほぼ自然に改善する軽症の気道感染症」である
・子供は年に6-8回風邪を引く
・風邪症状のうち、発熱は3日程度咳・鼻水は1-2週間で改善してくる
風邪症状に対して効果がある薬剤はほとんどないため、対症療法が基本となる

参考文献

  1. 小児科診療 81巻増刊号 p6-8(2018.04)
  2. 小児科診療 78巻10号 p1297-1302(2015.10)
  3. BMJ 1997; 515:1060-1064
  4. Uptodate The common cold in children: Management and prevention
  5. Aust Fam Physician 2022; 31: 971-973.
  6. BMJ 2013; 347: f7027.
  7. Lancet. 1991; 337: 591-594.
  8. Cochrane Database Syst Rev. 2014: CD001831
  9. システマティック・レビューとメタ解析で読み解く 小児のかぜの薬のエビデンス 大久保祐輔 金芳堂
  10. 外来小児科 2019;22:124-132
  11. Cochrane Database Syst Rev. 2013: CD003124
  12. Cochrane Database Syst Rev. 2014: CD006088
  13. Brain Dev. 2001; 23: 542-547.
  14. Brain Dev. 2019; 42: 103-112.
  15. WHO Cough and cold remedies for the treatment of acute respiratory infections in young children
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この記事を書いた人

大学病院の小児科に所属する、現役小児科医です。
小児科医としての臨床経験を生かして、エビデンスに基づく情報発信をしています。
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