風邪と紛らわしい病気【鼻症状がメインの場合】

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以前に小児の風邪について記事を書きました。

小児の風邪は自然に改善しますが、一方で風邪と紛らわしい病気があります。いわゆる「風邪をこじらせた」状態です。

これらの病気は一見風邪と見分けがつかず、看病している保護者の方の頭を悩ませていることと思います。
そこで今回は、「風邪と紛らわしい病気」のうち、鼻症状がメインの場合について解説します。

目次

風邪の自然経過

まずは、風邪の自然経過についておさらいします。
風邪は、発熱は3日間、咳鼻水は1〜2週間で改善してくるのでした。

風邪と紛らわしい疾患:3タイプに分類

風邪と紛らわしい疾患を考えるにあたり、風邪を3つのタイプに分類します。

・鼻症状がメインのタイプ
・咳症状が主体のタイプ
・咽頭痛が主体のタイプ

今回は、鼻症状がメインのタイプについて解説します。

急性副鼻腔炎

副鼻腔炎とは

副鼻腔とは、鼻の周りにある空洞で、鼻腔とつながっています。
風邪によって鼻の粘膜が腫れると、副鼻腔の中にウイルスや細菌が溜まって急性細菌性副鼻腔炎(Acute Bacterial Sinusitis:ABS)が起こります。
一方で、慢性副鼻腔炎は俗に蓄膿症ともいわれ、急性副鼻腔炎とは区別されます。

副鼻腔のイメージ
画像:いらすとや

風邪の発症から10日後以降に、6%の確率で急性細菌性副鼻腔炎(ABS、以下急性副鼻腔炎)を発症します(1)
好発年齢は4-7歳で、2歳未満では頻度が低いです(2)。というのも、副鼻腔が発達してくるのは1.5~2歳ごろだからです(3)
すなわち、0歳のお子さんで副鼻腔炎はまずありません。

急性副鼻腔炎の診断基準

鼻水が黄色くなったら副鼻腔炎と聞きましたが?

黄色い鼻水は普通の風邪でも見られます。
副鼻腔炎の診断基準としては、次のものが有名です。

急性副鼻腔炎の診断基準(米国小児科学会)
次のいずれかが認められれば、急性副鼻腔炎と診断する
持続性副鼻腔炎…風邪に続き、10日間を超えて鼻汁または日中の咳嗽を認め、経過中に改善の傾向が見られない場合
増悪性副鼻腔炎…風邪がいったん軽快したのち、発熱、日中の咳嗽、鼻汁が増悪した場合
重症副鼻腔炎39℃以上の発熱と膿性鼻漏が3日以上持続した場合

このなかで、①持続性ABSの診断基準をみて、「あれ?」と思われる方がいるかもしれません。

前に、風邪の咳や鼻水は1-2週間くらい続くって言ってませんでした?

①の診断基準は『改善の傾向が見られない場合』とあります。
一般的な風邪の場合、症状は良くなったり悪くなったりしながら続きます。

急性副鼻腔炎の治療

急性副鼻腔炎の治療は抗生剤治療です。米国小児科学会のガイドラインでは以下の治療を推奨しています。

①持続性副鼻腔炎…3日間は去痰薬や鼻水吸引で経過を見て、改善がなければ抗生剤治療
②増悪性副鼻腔炎/③重症副鼻腔炎…抗生剤治療

つまり、「10日間咳・鼻水が続いたからといって、すぐに抗生剤が必要というわけではない」ことがポイントです。

急性副鼻腔炎を疑うのはこんなとき
・10日間以上、咳・鼻水が改善しないまま続く
・いったん症状がよくなったあとに、発熱・日中の咳嗽・鼻水がぶり返す
・39℃以上の発熱と膿性鼻汁が3日間以上続く

急性中耳炎

急性中耳炎とは

急性中耳炎は、小児でなじみの深い疾患です。
3歳までに、80%の子どもが中耳炎を経験します(4)

耳の奥と鼻の奥は、耳管という管でつながっています。風邪によって耳管が腫れて通りが悪くなると、耳の奥にウイルスや細菌が溜まって中耳炎となります。

急性中耳炎の症状

画像:イラストAC

症状は上記イラストの通りさまざまですが、2歳以上では93%に耳痛を伴う(5)と言われています。
発熱はあってもなくてもよく、熱がないから中耳炎ではないとはいえません。

急性中耳炎の治療

急性中耳炎の治療は、抗菌薬投与と耳鼻科的処置(鼓膜切開など)です。

中耳炎は鼓膜所見などに応じて重症度が決まります。
軽症例では3日間経過観察を行い、改善がなければ抗菌薬投与を行います。
中等症では抗菌薬投与を行い、鼓膜所見が強い場合は鼓膜切開を検討します。
重症例では抗菌薬投与と鼓膜切開が基本治療となります。

抗菌薬投与を行う例(小児感染症の診かた・考えかた(医学書院)より)
・2歳未満
・症状が強い(熱が39℃以上、耳痛が48時間以上、具合が悪い)
・両側の中耳炎
・耳漏(耳垂れ)がある

また、鼻症状が強い場合は鼻洗浄・鼻吸引も治療の選択肢として提案されています。

中耳炎を疑うのはこんなとき
・2歳以上で、耳痛の訴えがある
・2歳未満で、耳をいじるなどの症状がある
・耳漏(耳垂れ)がある

鼻汁吸引について

鼻汁吸引は風邪の予防および治療のいずれの効果も期待できます
電動タイプと、保護者の方が口で吸うタイプがありますが、風邪をもらうリスクや吸引効果を考えると電動の方がおすすめです。ホームケアの手段として、電動の鼻汁吸引器は選択肢かもしれません。

値段は1万~2万円と決して安価とはいえません。しかし、1年間に6-8回というの風邪の頻度と受診の労力を考えると、決して悪い投資ではないと思います。
鼻汁吸引のコツについては、以下の記事が参考になります。

以下は、ほむほむ先生・岡本先生の鼻汁吸引に関するブログ記事のリンクです。
あわせてご参照ください。

まとめ

風邪と紛らわしい病気のうち、鼻症状がメインのタイプとして副鼻腔炎と中耳炎を解説しました。

どちらも軽症の場合は自然によくなりますが、場合によっては抗菌薬などの治療が必要となります。

風邪の自然経過を理解したうえで、熱が4日以上続く耳痛・耳漏がある咳・鼻水が10日以上全く良くならないなどの症状があれば小児科への受診をご検討ください。

参考文献

  1. Pediatr Infect Dis J. 2013; 32: 553-555.
  2. b Pediatrics. 2013; 132: e262-280.
  3. 伊藤健太・著、笠井正志・監、小児感染症のトリセツ REMAKE. 金原出版, 2019: 188-191
  4. 上山伸也・著 小児感染症の診かた・考えかた. 医学書院, 2019: 201-208
  5. Lee H, et al. Prim Care. 2013; 40: 671-686.
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この記事を書いた人

大学病院の小児科に所属する、現役小児科医です。
小児科医としての臨床経験を生かして、エビデンスに基づく情報発信をしています。
ご意見、ご感想などありましたらお問い合わせフォームからご連絡ください。

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