便秘症について

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小児の腹痛で、最も多い原因は便秘です。
救急外来にも腹痛を訴えて受診し、便秘の診断となる患者さんが多くいます。

便秘という病気自体は大人でもなじみ深いですが、小児の便秘には年齢ごとに特有の背景があります。
便秘がおこりやすいのは離乳食開始時、トイレトレーニング時、小学校入学時で、それぞれに身体的・社会的理由があります。
また、便秘が起こりやすい基礎疾患も存在するため、これらを適切に除外することも大切です。

今回は、便秘症について『小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン』に基づいて解説します。

目次

便秘とは

便秘と便秘症

『小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン(以下『ガイドライン』)では、便秘と便秘症を区別しています。

・便秘…便が滞った、または便がでにくい状態
・便秘症…便秘による(身体)症状が現れ、診療や治療を必要とする状態

すなわち、便秘により腹痛、嘔吐、食欲不振などの症状が出現している場合を便秘症といいます。

健常児の排便回数

健常児の排便回数を以下に示します。
生後1週間は、平均1日4回の排便をします。生後3ヵ月間は、母乳栄養児で平均1日3回、人工乳栄養児で平均1日2回の排便をします。

2歳までに排便回数は1日1-2回に減少し、3-4歳で1日1回程度となります。
ただし、排便回数には個人差も大きいです。

小児慢性機能性便秘症診療ガイドラインより

便秘症の分類

便秘症には、症状の期間による分類と、原因による分類があります。

症状の期間による分類
一過性便秘(急性便秘)…便が排出されると症状が消失し、排出までの期間も短時間である場合
慢性便秘…長期間にわたり持続的に症状がみられる場合

原因による分類
器質性便秘…解剖学的異常、基礎疾患、全身疾患に伴う便秘
機能性便秘…器質性便秘以外の便秘(95%以上はこちら(2))

便秘症の診断基準

国際的な便秘症の診断基準として、Rome Ⅳ基準(3)が用いられます。

乳幼児(4歳未満)の慢性機能性便秘症のRome Ⅳ診断基準

4歳までの乳幼児において、1か月間で以下の2項目以上を満たす

1. 排便が週2回以下
2. 過剰な便貯留の既往
3. 痛みを伴う、あるいは硬い便通の既往
4. 大きな便の既往
5. 直腸に大きな便塊の存在

トイレトレーニングの済んだ小児においては、以下の追加の基準を用いてもよい
6. トイレでの排便スキルを獲得後に、少なくとも週1回の便失禁
7. トイレが詰まるくらいの大きな便の既往

小児・青年期(5歳以上)の慢性機能性便秘症のRome Ⅳ診断基準

5歳以上の小児において、少なくとも最近1ヵ月にわたり週1回以上、以下の2項目以上がある
※過敏性腸症候群の診断基準は満たさないこと

1. 発症年齢が4歳以上で、トイレでの排便が週2回以下
2. 少なくとも週1回の便失禁
3. 便を我慢する姿勢または過度の自発的便貯留の既往
4. 痛みを伴う、あるいは硬い便通の既往
5. 直腸に大きな便塊の存在
6. トイレが詰まるくらい大きな便の既往

便秘になりやすい子どもとは

ガイドラインでは、以下の3つの時期が便秘になりやすいとされています。

便秘になりやすい時期
①乳児における母乳から人工乳への移行、あるいは離乳食の開始
②幼児におけるトイレトレーニング
③学童における通学の開始

なお、発症のピークは2-4歳のトイレトレーニングの時期とされています。

便秘の予後・合併症・基礎疾患

便秘の予後

4歳以下で便秘と診断された児の40%以上が、治療介入にもかかわらず学童期になっても便秘による症状が残ると言われています。
特に、最初の受診年齢が2歳よりも年長であると、有意に症状が残りやすいです。

便秘の合併症

慢性機能性便秘症の合併症として最も多いのが尿路系疾患であり、およそ40%に再発性尿路感染症をきたします
そのほか、遺尿・夜尿、排尿障害などをきたすこともあります。

便秘をきたす基礎疾患

便秘をきたす基礎疾患として、ヒルシュスプルング病という腸管の神経が欠損して動きが悪くなる病気や、直腸や肛門の形態異常などがあります。そのほか、脊髄神経疾患、代謝内分泌疾患など、便秘をきたす基礎疾患は様々です。

基礎疾患による便秘を疑う徴候として、以下があげられます。

便秘をきたす基礎疾患を示唆する徴候
・胎便排泄遅延(生後24時間以降)の既往
・成長障害、体重減少
・繰り返す嘔吐
・血便
・下痢
・腹部膨満
・腹部腫瘤
・肛門の形態、位置の異常
・肛門指診の異常
・脊髄疾患を示唆する神経所見と仙骨部皮膚所見

便秘の治療 

1. 治療目標

便秘の治療目標は、「便秘でない状態」に到達することです。
「便秘でない状態」とは、苦痛を伴わない排便が週に3回以上認められ、便秘に伴う症状がなく、子どもや保護者の生活が損なわれていない状態です。

2. 治療の手順

治療の最初の分岐点は、便塞栓があるかないかです。
便塞栓とは、直腸肛門部(便の出口)に便の塊があることです。
これがある場合、まずは便塞栓を取り除くことから治療が始まります。

便栓があるかどうかは、問診と診察、場合によっては超音波検査やレントゲン撮影などの検査も併用して診断します。

3. 便塊除去

便栓の除去は、下剤や坐薬、浣腸などにより行います。
いずれも有効性は示されていますが、明らかな優劣のエビデンスは少ないため、患児の特性や症状に応じて選択します。

便塊除去に使用される薬剤

4. 維持療法

便塞栓がない、あるいは便塊除去が完了したら維持療法を行います。
維持療法では、生活・食事指導を前例に行い、必要に応じて薬物治療を追加します。

生活習慣の改善点
・食事摂取量や水分摂取量の不足、不規則な日常生活や食習慣があれば是正する
  ➡哺乳・食事量の見直し、無理なダイエットの中止
・便意を感じたら我慢せずトイレに行くように指導する
・食後ゆとりのある時間帯にトイレにすわる習慣をつける
  ➡朝食後にトイレにすわる
・適度な運動をする

4-1. トイレトレーニングについて

トイレトレーニングは、便秘を悪化させたり、便秘の誘因となることがあります。そのため、適切な便秘治療を行い、規則的な排便習慣が確立してからトイレトレーニングを開始すべきとされています。

4-2. 食事療法

ガイドラインでは、以下の推奨がなされています。
水分摂取を増やすことは、脱水がない限りは不要とされています。
ヨーグルトなどの乳酸菌製品については『症例によって有効な可能性がある』、食物繊維については『有効性の報告もあり、増やすことを試みることが推奨される』と記載されています。

具体的な食物繊維の摂取量としては、3-7歳で1日あたり10g、8-14歳で14.5gを目安とする報告もありますが、強いエビデンスはありません。

乳児(1歳未満)では、プルーン、ナシ、リンゴなどの果汁が有効なこともあります

4-3. 薬物治療

便秘の薬物治療に使う薬剤には、以下の種類があります。

浸透圧性下剤
 腸管内で水分を吸収し、便を柔らかくする
 糖類下剤…マルツエキス、ラクツロースなど
 塩類下剤…酸化マグネシウムなど
刺激性下剤
 腸管を刺激し、便を出させる
 ピコスルファートナトリウム、グリセリンなど
その他
 漢方薬…大建中湯など

便秘治療に使用される頻度の高い薬剤

これらの薬剤の使い分けにははっきりとした基準はありませんが、基本的には浸透圧性下剤から使用を開始することが推奨されています。

まとめ

便秘は、小児の30%に認めるともいわれ、大人でもなじみ深い疾患です。
しかし、突然の腹痛や食思不振、嘔吐など、症状による生活の障害度も決して小さくないといえます。

便秘を早期に発見し、介入することで生活の質を上げることができるかもしれません。

今回は小児慢性機能性便秘症診療ガイドラインに沿って解説しましたが、専門用語も多く難解だったかもしれません。

便秘治療は、かかりつけ医との連携が不可欠です。
お子さんと保護者、かかりつけ医が信頼関係を築いていくことから便秘の治療は始まります。

「便秘かも?」と思ったら、まず小児科で相談し、適切な評価を行ってみてはいかがでしょうか。

参考文献

  1. 小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン 診断と治療社 2013
  2. UpToDate Constipation in infants and children: Evaluation
  3. Benninga MA, Nurko S, Faure C, et al.:Childhoodfunctional gastrointestinal disorders:Neonate/Toddler. Gastroenterol 2016;150:1443-1455.
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この記事を書いた人

大学病院の小児科に所属する、現役小児科医です。
小児科医としての臨床経験を生かして、エビデンスに基づく情報発信をしています。
ご意見、ご感想などありましたらお問い合わせフォームからご連絡ください。

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