熱性けいれんについて

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熱性けいれんは、小児科ではよくみられる疾患です。
約10人に1人という頻度で、決して珍しい病気ではありません。

しかし、自分の子どもが目の前でけいれんするというのは非常にショッキングな出来事です。
始めてけいれんを目の当たりにして、頭が真っ白になってしまったという経験をお持ちの親御さんもいらっしゃることでしょう。

また、熱性けいれんと診断されたあとも「けいれんが再発しないか」「神経発達に異常はないのか」「てんかんの心配はないのか」など、不安の種はつきません。

そこで今回は、熱性けいれんについて解説します。

目次

熱性けいれんとは

熱性けいれんの定義

熱性けいれんの定義について、『熱性けいれん診療ガイドライン 2015』には以下のように書かれています。

熱性けいれんの定義(熱性けいれん診療ガイドライン 2015 診断と治療社)
主に生後6-60ヵ月までの乳幼児期に起こる、通常は38℃以上の発熱に伴う発作性疾患(けいれん性、非けいれん性を含む)で、細菌性髄膜炎などの中枢神経感染症、代謝異常、その他の明らかな発作の原因がみられないもので、てんかんの既往があるものは除外される           

すなわち、熱性けいれんとは『熱があるときのけいれん』です。しかし、以下で述べるように『熱があるときのけいれん=熱性けいれん』ではありません。

そもそもけいれんとは、大脳皮質の神経細胞が過剰に興奮することで、神経機能の異常が起こり、筋肉が不随意に(自分の意志と関係なく)収縮する発作のことをいいます。

熱性けいれんと聞くと、手足をがたがた震わせる様子を連想するかもしれません。
しかし、上記の定義にも『けいれん性、非けいれん性を含む』とある通り、熱性けいれんには力が抜けたり、一転を見つめていたり、目が上を向いていたりするだけといった発作も含まれます。

なお、定義上は年齢を6-60ヵ月(生後半年から5歳まで)としていますが、年齢以外は熱性けいれんとして矛盾しない場合は生後6ヵ月未満や6歳以降でも熱性けいれんと考えてよいとされています。

熱性けいれんの疫学

熱性けいれんの発生頻度は人種・地域によって異なります。日本では7-11%程度で、約10人に1人にみられる疾患です。
比較的よくみられる疾患と考えられます。

こどもの脳は発達段階にあり、熱によって興奮しやすいため熱性けいれんが起こると考えられています。
そのため、年齢が上がると熱性けいれんは起こりにくくなります。

熱があって発熱したら熱性けいれん?

熱があるときのけいれんが全て熱性けいれんではありません
細菌性髄膜炎や脳炎・脳症など、熱があるときのけいれんには怖い病気も隠れています

そのため、初めてのけいれんでは短い時間であったとしても病院を受診した方がよいと思われます。

熱性けいれんの症状

熱性けいれんの症状は、人によって、あるいは発作ごとに違います。
代表的な症状は以下の通りです。

熱性けいれんの症状
・手足がこわばる、びくびくと震える
・白目をむく、一点を見つめる
・唇が紫色になる
・口から泡をふく
・呼びかけても反応がない

以下にけいれんの様子の動画を載せますが、けいれんを見たことのない方にとってはㇱョックの大きい映像かもしれません。
閲覧にあたってはご注意ください。

けいれんの様子:1分32秒~

熱性けいれんの分類

単純型と複雑型

熱性けいれんには、単純型複雑型の2つがあります。
以下の3項目のいずれかに該当するものを複雑型熱性けいれん、いずれにも該当しないものを単純型熱性けいれんといいます。

以下のいずれかに該当するものを複雑型熱性けいれんとする
・焦点性発作(体の左右片側だけがけいれんするなど、脳の一部だけが興奮していると思われる発作)の要素がある
・15分以上持続する発作
・一度の発熱の間に、通常24時間以内に複数回起こる発作

以上のいずれにも該当しないものを単純型熱性けいれんとする

複雑型熱性けいれんの特徴として、のちのてんかん発症のリスクが上昇するという点があげられます。
後述の熱性けいれんとてんかんの関連の章でも触れますが、複雑型熱性けいれんののちにてんかんを発症する確率は10-20%で、健常児の1%と比べてハイリスクと言えます(2)

熱性けいれん重積

長時間持続する発作、あるいは繰り返す発作の間で意識状態が改善しないものを熱性けいれん重積状態といいます。
『長時間』とは、30分以上と定義することが多いですが、現場ではもっと短く定義してもよいのではという議論もあります。
30分以上という時間の根拠は、動物実験において長時間の発作で脳の障害が起こることを踏まえてのものです。

持続時間を短くした方がよいのでは、という議論の根拠は、一般的にけいれん発作は5-10分程度で自然に止まることが多く、それより長く続くと自然には止まらず30分以上発作が続くおそれがあるためです。

熱性けいれん診療ガイドライン2015では、
熱性けいれん重積の定義(脳障害を引き起こしうる時間)➡30分
けいれんの治療開始基準➡5-10分
として、両者を区別しています。

けいれん発作の時間経過

熱性けいれんの再発率

熱性けいれんのお子さん全体の再発率は約30%です。裏を返すと、約70%のお子さんは熱性けいれんが1回だけで終わります
熱性けいれんの再発予測因子としては、以下が考えられています。

熱性けいれんの再発予測因子(熱性けいれん診療ガイドライン 2015)
①両親いずれかが熱性けいれんになったことがある
②1歳未満の発症
③発熱から発作までが短時間(およそ1時間以内)
④発作時の体温が39℃以下

これらの再発予測因子のいずれも認めない場合、再発率は約15%です。
一方で、いずれかの再発予測因子を持つお子さんの再発率は2倍以上となります。

熱性けいれんとてんかんの関連

てんかんとは

てんかんとは、熱などの誘因のないけいれんが繰り返される慢性の脳疾患です。脳神経細胞が過剰な活動をすることで、けいれん、意識消失、体の一部がぴくぴくする、などの発作が繰り返し起こる病気です。
厳密には、てんかんとは以下のように定義されます。

てんかんの定義(てんかん診療ガイドライン 2018)
てんかんとは、以下のいずれかの状態と定義される脳の疾患である
①24時間以上の間隔で2回以上の非誘発性発作(※)が生じる
②1回の非誘発性発作が生じ、その後10年間にわたる発作再発率が2回の非誘発性発作後の一般的な再発リスクと同程度(60%以上)である
③てんかん症候群と診断されている

※非誘発性発作…発熱や感染症、低血糖などけいれんを誘発する原因のない発作

Q8:てんかんとはどのような病気なのでしょうか。 日本小児神経学会

非常に簡単に言えば、てんかんとは『熱がないときに2回以上けいれんする病気』と表現できます。

熱性けいれんとてんかん

熱性けいれんを起こした児が、のちにてんかんを発症するリスクは2.0-7.5%程度です。一般人口におけるてんかん発症率は0.5-1.0%であるため、熱性けいれんを起こした児はそうでない児と比べててんかん発症のハイリスクです(2)

しかし、これは熱性けいれんからてんかんに進展・移行することを意味しているわけではありません
てんかんと熱性けいれんは一連の病気ではありません。また、熱性けいれんがてんかんの原因となるわけでもありません。

熱があるとけいれんが起こりやすくなるのは、てんかんの児でも、そうでない児でも同じです。
てんかんは熱がなくてもけいれんが起こる病気ですが、発熱や体調不良があるとけいれんは起こりやすくなります。てんかんの初期の症状として発熱に誘発されたけいれんが起きた場合、熱性けいれんと区別をつけることは難しいです。
こういったケースを含めた熱性けいれん後のてんかん発症率が2.0-7.5%という数字です。

てんかん発症関連因子

熱性けいれん後のてんかん発症関連因子には以下の4因子があります。

熱性けいれん後のてんかん発症関連因子
①熱性けいれん発症前の神経学的異常(発達の遅れなど)
②両親・兄弟姉妹にてんかんの診断を受けている人がいる
③複雑型熱性けいれん(上記『熱性けいれんの分類』参照)
④発熱から発作までが短時間(概ね1時間以内)

①~③のいずれも認めない場合:てんかんの発症率は1.0%(一般人口における発症率と同等)
①~③のいずれか1因子を認める場合:てんかんの発症率は2.0%
①~③のいずれか2-3因子を認める場合:10%
④を認める場合:てんかん発症のリスクは2倍程度

重要な点は、てんかん発症関連因子を認めない児ではてんかんの発症率は一般人口における発症率と同等ということです。
また、てんかん発症因子を複数もつ児でもてんかんの発症率は約10%であり、90%はてんかんを発症しません。

また、上記のてんかん発症関連因子を知ることで、てんかんの発症予測を立てることはできますが、てんかん発症の予防方法があるわけではありません

熱性けいれん診療ガイドラインには、以下のように記載されています。

『てんかんとしての治療は無熱時発作の発症後に開始すれば十分であり、熱性けいれん時にてんかん発症をあらかじめ予測することは、実地臨床上は無意味といえる。熱性けいれん後のてんかん発症を防ぐという観点では、熱性けいれん重積状態の適切な対応の方がより重要である』

熱性けいれん診療ガイドライン 2015 診断と治療社

すなわち、熱性けいれんによる児への不利益を最小化するには、後述するけいれん時の対応が重要ということになります。

熱性けいれんとてんかんについては、以下の岡本光宏先生のブログ記事もご参照ください。

けいれん時の対応

まず『横向きに寝かせる』

自宅でけいれんが起きた場合、まずすべきことは『横向きに寝かせる』です。

寝かせることで、脳への血流を維持しやすくなります。
また、顔を横に向けることで嘔吐した場合に吐しゃ物で窒息することを防げます。

さらに、衣服を緩めると呼吸がしやすくなります。

けいれん時にしてはいけないこと

してはいけないこと
・口の中に指や箸などを入れる
  ※舌を噛まないように、とかつては推奨されていましたが現在はかえって危険といわています
・ゆさぶる、抱き上げる、
  ※これらによりけいれんが短くなることはありません

救急車を呼ぶか、自家用車・タクシーで受診するか

けいれんが5分以上続いている場合は、自然に止まらないおそれがあるため救急車を呼びましょう

救急車でなくても、すぐに受診をした方がいいのは以下のようなときです。

すぐに受診をした方がよいとき
・けいれん後、意識が戻らない
・けいれんを短時間で繰り返す
・けいれんの強さが左右で異なる
・けいれんする前に頭を強くぶつけていた

※以下の教えて!ドクターの冊子を参考にさせていただきました。
教えて!ドクター こどもの病気とおうちケア
(けいれんについてはp8~11を参照)

また、けいれん時に受診に迷った場合はこどもの救急も参考になります。

こども医療電話相談事業(#8000)も受診時の相談に有用です。

けいれん時の様子を撮影する

けいれん時のお子さんの様子をスマートフォンなどで撮影して持参していただくと、医療者側にとっては大変参考になります。

ただし、お子さんがけいれんしているという非常事態にそこまで冷静に対応することは困難な場合も多いです。
あくまで精神的に余裕があればとお考え下さい。

熱性けいれんの予防

ダイアップ坐薬

熱性けいれんの予防法として、ダイアップ坐薬があります。
一般名はジアゼパムといい、ベンゾジアゼピン系の薬剤です。抗不安薬や睡眠薬として用いられます。

ダイアップの使い方は、37.5℃以上の発熱があったときに8時間あけて2回投与します。
これにより、血中濃度を24時間ほど保つことができます。

ただし、ダイアップは全てのお子さんに使用することは推奨されていません。
それは、以下の理由によります。

ダイアップ坐薬を全ての児に使うことが推奨されない理由
①熱性けいれんを再発する児は30%程度であること
②ダイアップには副作用も存在すること
③ダイアップは使用し始めると1~2年間、あるいは4,5歳になるまで使用するため、発熱のたびに投与するのが保護者の負担となりうること

ダイアップ坐薬はどんなこどもに使うべきですか?

全ての熱性けいれんのお子さんでダイアップ坐薬を使うことは推奨されません
熱性けいれん診療ガイドライン 2015では、以下の適応を満たしたお子さんで使用することが推奨されています。

ダイアップ坐薬の適応

15分以上の発作が起きた場合
②以下の(1)~(6)のうち、2つ以上を満たす熱性けいれんを2回以上起こした場合

ダイアップ坐薬の副作用はなんですか?

ベンゾジアゼピン系薬剤は抗不安薬、睡眠薬として使用される薬剤です。
副作用として、25-30%に失調、不活発、易刺激性などの神経学的症状を、5%に言語障害、抑うつ、睡眠障害を認めたという報告があります(1)

その他の治療

ダイアップ坐薬を使用しても熱性けいれんを繰り返すお子さんには、抗てんかん薬の内服が有効なことがあります。

推奨されない予防法

①解熱剤をたくさん使う
解熱剤に熱性けいれんの予防効果がある、とする強いエビデンスはありません。
熱性けいれん診療ガイドライン 2015でも、予防目的の解熱剤の使用は推奨されていません。

ただし、解熱剤を使うことで熱性けいれんが起こりやすくなるとするエビデンスもありません。熱による苦しみを和らげる目的で解熱剤を使用することについては問題ないと考えられます。

②予防接種を打たない
熱性けいれん診療ガイドライン 2015では、
『当日の体調に留意すればすべての予防接種をすみやかに接種してよい』
『初回の熱性けいれん後のワクチン接種までの経過観察期間には明らかなエビデンスはなく、長くとも2~3ヵ月程度に留めておく』
とあります。

予防接種後に発熱することはしばしばあります。しかし、副反応による発熱からけいれんを起こすことを恐れて予防接種を打たないのは、デメリットが大きいと言えます。

けいれんを起こしやすくする薬剤

抗ヒスタミン薬は、アレルギー性鼻炎や鼻風邪などに処方される薬剤です。
第一世代と第二世代があり、第一世代の抗ヒスタミン薬は鎮静性抗ヒスタミン薬とも呼ばれ、眠気を引き起こしやすい特徴があります。

この第一世代抗ヒスタミン薬により、発熱からけいれんまでの時間が短くなる、またけいれんの持続時間が長くなるといった報告があります(1)
商品名としては、ポララミン、レスタミン、ペリアクチン、アタラックスPなどが該当します。

発熱時は、なるべくこれらの薬剤は避けた方がよいでしょう。

まとめ

熱性けいれんは、約10人に1人という『よくある』疾患です。
また、けいれんが30分以上続くといった場合を除けば命にかかわることはなく、後遺症などもない予後のいい疾患です。

重要なのは、よく起こる病気だからこそ、けいれん時の対応を心得ておくことです。
また、熱性けいれんという病気のその後(7割のこどもは熱性けいれんを繰り返さない、9割以上のこどもはてんかんを発症しない)を知ることも大切です。

熱性けいれんのまとめ
・熱性けいれんは10人に1人におこる、予後のいい良性疾患
・発熱時のけいれんが全て熱性けいれんではない
・初回の熱性けいれんを起こした児の70%は繰り返さない
・熱性けいれんとてんかんは一連の病気ではなく、熱性けいれんがてんかんを引き起こすことはない
・てんかん発症関連因子のない児ではてんかん発症率は一般人口とかわらない
・けいれんが起きたら、まずは横向きに寝かせる
・けいれんが5分以上続くときは救急車を呼ぶ
・初めてのけいれんでは基本的に医療機関を受診する
・てんかんの予防にはダイアップ座薬があるが、全ての児で推奨されるわけではない

参考文献

  1. 熱性けいれん診療ガイドライン 2015 診断と治療社. 日本小児神経学会
  2. Nat Clin Pract Neurol. 2008 Nov;4(11):610-21.
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この記事を書いた人

大学病院の小児科に所属する、現役小児科医です。
小児科医としての臨床経験を生かして、エビデンスに基づく情報発信をしています。
ご意見、ご感想などありましたらお問い合わせフォームからご連絡ください。

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