RSウイルスについて

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RSウイルスは、主に乳幼児の呼吸器感染症の原因となるウイルスです。
例年、秋ごろから流行り始め、春ごろまで流行が続きます。1-2月ごろがピークとなることが多いです。
RSウイルスは、幼児期以降のお子さんにとっては単なる鼻風邪のウイルスであることが多いですが、新生児や乳児では時に重篤な呼吸器感染症(肺炎、細気管支炎など)を引き起こすことがあります。

2021年には、日本全国でRSウイルスの大流行が起こりました。このときは、流行の規模だけでなく例年よりも早い時期から流行したことも話題となりました。
新型コロナウイルス感染症の流行がはじまった頃から、RSウイルスの流行時期の前倒しの傾向がみられています。

この記事では、2021年に刊行されたガイドラインや最新の論文をもとに、RSウイルスの特徴、症状、治療、予防法などについて解説します。

この記事のまとめ
・RSウイルスは2歳までにほぼ100%罹患する
・咳、鼻水などの風邪症状(上気道感染)ではじまり、30-40%が肺炎、細気管支炎など(下気道感染)に進展する
・新型コロナウイルス感染症の流行以降、RSウイルスの流行開始が初秋から初夏に前倒しになっている
・早期乳児(特に生後3か月未満)の無呼吸発作には注意が必要
RSウイルスに特別な治療はなく、症状に応じた治療(対症療法)が中心となる
・RSウイルスの重症化リスクが高い児では、抗体製剤(シナジス)の適応となる

目次

RSウイルスとは

RSウイルスは、Respiratory-Syncytial Virusの略で、直訳では『呼吸器合胞体ウイルス』となります。
培養細胞に特徴的な合胞体を形成することから、このように命名されました。

RSウイルスは、1950年代に鼻かぜをひいていたチンパンジーから分離されました。
その後、小児の呼吸器感染症を引き起こすウイルスとして認識されるようになります。

RSウイルスの疫学

2歳までにほぼ全ての児がRSウイルスに罹患する

RSウイルスは、ほぼ全ての小児が感染するウイルスです。
1歳までに約50%、2歳までにほぼ100%の児がRSウイルスに感染します(1)

RSウイルスは感染症法の5類感染症であり、年間10万人を超すRSウイルス感染症が報告されています。

2017年1月から2018年12月までの2歳未満におけるRSウイルス感染症についての調査結果は以下の通りです(2)

・毎年、2歳未満の10万人以上がRSウイルス感染症の診断を受ける。
感染者の約25%が入院する。
入院患者の約40%は生後6か月未満である。
・入院した児の約90%は重症化リスクを持たない

感染経路、潜伏期間

RSウイルスは飛沫感染接触感染が主な感染経路です。
感染者の鼻水や唾液の飛沫に含まれるウイルスが、周囲の人の手などを介して鼻や喉、目の粘膜に付着することで感染します。飛沫は約1-2m飛散し、手や物の表面に付着してから数時間は感染性を保つと言われています(3)

潜伏期間は約3-5日間で、ウイルスの排出期間は通常1-2週間と言われています(2)

流行時期の変化

コロナ禍以前は、晩秋から初冬にかけて流行が始まり、春ごろに終息する傾向がありました。
しかしながら、2021年の大流行時には、初夏からはじまり冬まで流行が持続しました。つまり、流行が前倒しになってきています。全国的にRSウイルスの流行に変化が見られており、予測が難しくなっています。

また、罹患年齢の高齢化も指摘されています。

全国のRSウイルス流行状況
参考文献(4)より

RSウイルスの再感染について

RSウイルスは、終生免疫(一生涯の免疫)を獲得することはできず、子どもだけでなく大人や高齢者になっても再感染することがあります。

大人がRSウイルスに罹った場合、普通の風邪の症状が出ることが多く、重症化することは稀です。
しかし、米国の報告では年間17000人の大人がRSウイルスによる感染で死亡しており、その約80%が65歳以上の高齢者です。

高齢のご家族と同居しているご家庭では、お子さんから高齢者への家庭内感染についても意識した方がいいかもしれません。

症状

鼻水、咳、痰

RSウイルスでは、上気道炎(いわゆる風邪)、細気管支炎、肺炎など様々な病型がみられます。
いずれの病型でも、粘り気の強い鼻水や痰が大量にみられることが多いです。
また、立て続けに咳をすることで吐いてしまう「咳き込み嘔吐」も多く、それにより食事や水分がほとんど摂れない、という患者さんもよく目にします。

典型的な病型が細気管支炎で、喘息のようなぜいぜいとした呼吸音が特徴です。喘息と診断されたことない小さなお子さんで「すごくぜーぜーしているんです」というお話を聞くと、RSウイルスかもしれないな、と考えることもあります。

はじめは微熱、鼻水、咳といった風邪の症状(上気道症状)で始まることが多いですが、約30-40%で下気道感染(細気管支炎、肺炎)を起こします(2)
以下のグラフのように、症状のピークは発症してから数日後であることが多いです。

RSウイルス細気管支炎の典型的な臨床経過
参考文献(2)より

無呼吸発作

無呼吸発作とは、呼吸を止めてしまう発作のことです。生後3ヶ月未満の児がRSウイルスに罹患した際にみられることがある症状です。時に致命的となることがあり、年少児、特に生後3か月未満でRSウイルスに感染した際には最も注意が必要な症状です。
無呼吸発作が起こる原因としては、脳の呼吸中枢が未熟であることに加え、多量の鼻水や痰により気道(空気の通り道)がふさがってしまうことが可能性としてあげられています。

予期せぬ乳児の突然死(Sudden unexpected death in infant;SUDI)で亡くなったお子さんからRSウイルスが検出されたという報告もあります。しかし、発症年齢が6か月以降と無呼吸発作が起こりやすい3ヶ月未満よりも年齢が高いこと、必ずしも睡眠中に突然死が起きているわけではないことから、いわゆるSIDS(乳幼児突然死症候群)とは異なる病態のようです(5)

SIDS(乳幼児突然死症候群)については以下の記事もご参照ください。

注意を要する症状

RSウイルス感染症は、ときに重症化することもある疾患です。
以下のような症状が出現した際には、医療機関の受診を検討しましょう。

・呼吸が苦しそう、顔色が悪い
・ミルクの飲みが悪い、飲んでも咳き込んで吐いてしまう
・呼吸を止めているような様子がある

RSウイルスの重症化リスク

RSウイルスは、以下のお子さんで重症化のリスクが高いことが知られています。

・早産児(在胎37週0日未満)
・先天性心疾患
・免疫不全
・染色体異常(ダウン症など)

しかし、先に述べた通り入院を要した児の90%は重症化リスクを有していません。つまり、上記のリスクに当てはまらないからといって、RSウイルスについて全く心配しなくてよいという訳ではありません

RSウイルス感染症の診断

RSウイルスの診断は、一般的に抗原検査が用いられます。
もっとも確実な方法はPCR検査ですが、コストや設備の面から現実的ではありません。
抗原検査は、PCR検査と比較して80%程度の診断性能(感度)を持っているという報告があります。

RSウイルスの検査が保険適応となるのは、①入院中の患者、②1歳未満の乳児、③パリビズマブの適応となる患者、です。
そのため、1歳以上のお子さんで入院の必要がない場合、RSウイルスの検査を保険で行うことはできません

RSウイルス感染症の治療

RSウイルスはインフルエンザなどとは異なり、特異的な治療、すなわち特効薬はありません。
補助的な治療が中心となります。
無呼吸発作に対しては、CPAP(持続陽圧換気)や、HFNC(高流量経鼻カニューラ)、人工呼吸器などによる呼吸のサポートを行います。哺乳や食事摂取が不十分であれば点滴などを行います。

シナジスについて

シナジスとは、RSウイルスの予防注射です。
シナジスは商品名で、一般名をパリビズマブといいます。

一般的な肺炎球菌などのワクチンとは違い、パリビズマブ(シナジス)は抗体製剤です。
ワクチンとシナジスには以下のような違いがあります。

ワクチン…弱毒化した病原体や、不活化した病原体を接種し、抗体をつくる
シナジス…抗体そのものを取り出して接種する

シナジスは抗体そのものを注射するため、一般的な予防接種と比べて効果が長続きしません
中心となる成分はIgG抗体であり、半減期(血中濃度が半分になるまでの期間)は約25日です。
そのため、シナジスはRSウイルスの流行期に月に1回注射をする必要があります。

シナジスの適応となるのは以下の児です。

https://med.astrazeneca.co.jp/medical/product/sng_support/sng_support01.html
https://med.astrazeneca.co.jp/medical/product/sng_support/sng_support01.html

シナジスの投与方法

シナジスは、RSウイルスの流行期に月1回接種します。

シナジスの効果について

ガイドラインによると、シナジスの投与により、早産児や慢性肺疾患を有する児の呼吸器感染症による入院率を37%低下させました。

また、シナジスの発売前後で、シナジス対象児のRSウイルス感染による入院が9%から1-2%にまで減少したという報告もあります。

シナジスの薬価について

シナジスは高価な製剤であり、小さいバイアルでも1回の接種につき約5万円という価格です。
今後、より安価な予防薬の開発が待たれます。

RSウイルスの予防について

RSウイルスは風邪のウイルスであり、鼻水や唾液を介して感染します。
手洗いや(年長児では)マスクは予防のために有効です。共用のおもちゃは、使ったら拭いて戻すことなども重要です。

また、ガイドラインでは受動喫煙を避けること、(アレルギーのある児では)掃除によりダニやハウスダストを取り除くことなどが予防法としてあげられています。RSウイルスと喘息の関連が指摘されているように、喘息の予防が一部RSウイルスの予防として関連する部分があるかもしれません。

RSウイルスのワクチンの開発について

上で述べたシナジスは、RSウイルスのワクチンではなく抗体製剤でした。
では、RSウイルスのワクチンは開発されないのでしょうか?

現在、RSウイルスのハイリスクである乳幼児、妊娠中の女性、高齢者を対象としたワクチン、抗体製剤が開発されています。

乳幼児

米国FDAは、2023年7月にアストラゼネカとサノフィが共同開発したモノクローナル抗体製剤「ニルセビマブ(nirsevimab)」を承認しました。
これはシナジスと同じ抗体製剤ですが、単回投与でいい点が大きく異なります。

妊娠中の女性

米国FDAは、妊娠中の女性が接種することで新生児のRSウイルス感染を防ぐタイプの世界初のワクチンとして、ファイザーの「アブリスボ(abrysvo)」を承認しました。
妊娠後期(32週から36週)に接種することで、新生児のRSウイルスの重症化リスクを低減させることができます。

一方で、早産のリスクがわずかに上昇するとの指摘があり、早産リスクの高い妊婦には接種をしないよう注意を促しています。

高齢者

2023年9月に、厚労省は60歳以上を対象としたグラクソ・スミスクライン社のワクチン「アレックスビー(Arexvy)」を承認しました。アレックスビーは、2023年5月にFDAの承認を受けています。

今後、実際の接種が始まっていくことと思われます。

RSウイルスと喘息の発症の関係

重症RSウイルス感染症はのちの喘息発症のリスクとなる可能性がある

1歳までにRSウイルスに感染したお子さんは、5歳までに喘息を発症するリスクが26%高かった(感染した児 21%、感染していない児は16%)という報告もあります(6)

そのほかにも、多くの研究でRSウイルス感染とのちの喘息発症の関連性が指摘されています。
特に、入院を要するような重症RSウイルス感染症でリスクが高いとする報告が多いようです。

ただし、これはまだ結論が出た議題ではありません
具体的な予防方法や、さらなる疫学的データを待つ必要があると考えます。

まとめ

この記事のまとめ
・RSウイルスは2歳までにほぼ100%罹患する
・咳、鼻水などの風邪症状(上気道感染)ではじまり、30-40%が肺炎、細気管支炎など(下気道感染)に進展する
・新型コロナウイルス感染症の流行以降、RSウイルスの流行開始が初秋から初夏に前倒しになっている
・早期乳児(特に生後3か月未満)の無呼吸発作には注意が必要
RSウイルスに特別な治療はなく、症状に応じた治療(対症療法)が中心となる
・RSウイルスの重症化リスクが高い児では、抗体製剤(シナジス)の適応となる
・現在、さまざまな患者さんを対象としたRSウイルスの予防薬が開発されつつある

RSウイルスの関連資料・サイト

参考文献

  1. UpToDate Respiratory syncytial virus infection: Clinical features and diagnosis
  2. 小児疾患診療のための病態生理1 改訂第6版 小児内科 52巻増刊 p1037-1042(2020.11)
  3. 小児RSウイルス呼吸器感染症診療ガイドライン 2021 日本小児呼吸器学会/日本新生児成育医学会
  4. 小児内科 2023;55(4):645-648.
  5. 日本医事新報 2016;4828:28-31.
  6. Lancet 2023;401(10389):1669-1680.
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この記事を書いた人

大学病院の小児科に所属する、現役小児科医です。
小児科医としての臨床経験を生かして、エビデンスに基づく情報発信をしています。
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