2022年6月は、日本全国で異例の早さの梅雨明けと、それに続く異常な暑さを観測しました。それにより、熱中症で病院を受診したり、救急搬送される事例も例年より早く見受けられています。
実は、熱中症の発症リスクが最も高いのは梅雨明け前後の暑さのピークです。
この記事を書いているのは2022年7月上旬ですが、すでに日本各地で例年より早い梅雨明けを迎えており、最も熱中症の危険がある時期にさしかかっています。
そこで今回は、熱中症について、予防と対策を中心に解説します。
熱中症とは
熱中症の定義
日本救急医学会による「熱中症診療ガイドライン2015」(1)では、熱中症を以下のように定義しています。
熱中症に似た言葉として、「熱失神」「熱痙攣」「熱疲労」「熱射病」などもありますが、これらを総称して『熱中症』としています。
毎年、どのくらいの人が熱中症になるのか
熱中症で救急搬送される人数は、2010年以降は毎年4万人をこえています。6月から9月の統計なので、単純計算で1ヵ月あたり1万人、1日あたり300人以上の人が熱中症で救急搬送されていることになります。
熱中症になりやすい時期、人、環境
熱中症になりやすい時期
熱中症になりやすい時期として、熱中症ガイドライン2015では以下のように述べられています。
・熱中症の発症時期は、梅雨明け後7月中旬から8月上旬にかけてピーク
・連続した晴天はリスク
・時間帯は、12時および15時前後の日中が最多
熱中症になりやすい人
熱中症になりやすい人については、熱中症環境保健マニュアル2022で以下のように示されています。
また、小児は以下の理由で熱中症になりやすいとされます。
小児が熱中症になりやすい理由 (3)
①基礎代謝が高く、熱産生が多い
②体重当たりの体表面積が大きく、熱を吸収しやすい
③循環血液量が少なく、血流を介した熱の放散が少ない
④汗腺あたりの発汗量が少なく、成人よりも高体温になってから発汗を始める
⑤生理学的な反応が緩やか(汗をかく、尿を減らす、汗へのミネラルの分泌を減らすなど)
⑥低身長のため、地表面からの熱をうけやすい
熱中症になりやすい環境
熱中症になりやすさの指標として、WBGT(暑さ指数)があります。
①気温、②湿度、③輻射熱など周辺の熱環境、の3つをもとに計算された指標です。
環境省熱中症予防情報サイトでは、『熱中症警戒アラート』を運用しており、その日の最高暑さ指数が33を超えると予想された場合に発表されています。
熱中症はなぜ起こるのか
熱中症は、暑さに体が適応できないことで起こるのでした。
では、なぜそのような事態が起こるのでしょうか。
体の熱を逃がす仕組み
暑い環境に置かれると、体は熱を逃がそうとします。
熱の逃がし方には、次のような方法があります。
しかし、環境の温度が体温より高くなると、熱の移動が起こりにくくなり汗の蒸発のみによってしか熱を逃がせなくなります。
汗をかくと水分や塩分が失われていき、体に熱がたまるようになってくると熱中症が起こります。
熱中症が懸念される環境
以下のような条件では熱中症になりやすいとされています。
熱中症の症状
熱中症の症状
熱中症環境保健マニュアルには、「『暑熱環境にさらされた』という状況下での体調不良は、すべて熱中症の可能性があります」と書かれています。
熱中症の症状は、重症度により軽症・中等症・重症に分かれています。
これは、「具体的な治療の必要性」の観点も含んでいます。
すなわち、軽症であれば現場対応、中等症であれば医療機関を受診、重症であれば救急要請、という具合です。
重症度の判定に重要なのは、「意識がしっかりしているかどうか」です。少しでも「意識がおかしい」と判断された場合は中等症以上となり、医療機関への受診が必要です。「意識がない」という場合には、全て重症に分類し、絶対に見逃さないことが重要です(2)。
・暑熱環境にさらされた状況下の体調不良は、すべて熱中症の可能性がある
・「意識がおかしい」場合は中等症であり、医療機関への受診が必要
・「意識がない」場合は重症であり、ただちに救急要請
熱中症の治療
経口補液療法
治療および予防のためには、塩分と水分の両方を適切に含んだものを飲むことが推奨されています(1)。
具体的には、オーエスワン(大塚製薬)、あるいはアクアライト(和光堂)があります。
スポーツドリンクは塩分が少なく、糖分が多いため注意が必要です。
冷却
熱中症による高体温に対して、冷却は有効です。
一方で、内因性の発熱に対しては冷却の有効性はさほど認められていません。
これは、内因性の発熱では脳の視床下部というところが体温を高めに設定しているからで、環境による高体温では体温の設定は平熱だからです。
具体的な方法としては、衣服をゆるめ、首・腋の下・太ももなどを氷嚢などで冷やします。
熱中症の予防
熱中症の予防のためには、以下のことが推奨されています(2)。
詳細な内容については、熱中症環境保健マニュアルをご覧いただければ幸いです。
まとめ
今回は、熱中症について解説しました。
急に暑い日が増え、連日猛暑に見舞われる昨今では熱中症の危険性が急激に高まっています。
熱中症は予防および早期発見が重要なため、こどもに関わるなるべく多くの方が熱中症に対する基礎知識を持つことが望ましいです。
環境省の「熱中症環境保健マニュアル2022」は、一般の方向けにもわかりやすくできているので、ぜひご一読いただければと思います。
熱中症のまとめ
・梅雨明けは熱中症のリスクが最も高い
・こどもは熱中症になりやすい
・熱中症の重症度で重要なのは意識がはっきりしているかどうか
・熱中症環境保健マニュアル2022を活用しよう
参考文献
- 熱中症診療ガイドライン2015 日本救急医学会
- 熱中症環境保健マニュアル2022 環境省
- 子どもの熱中症. 東京小児科医会報 2019. 38(1):4-10.
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