胃腸炎について

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胃腸炎は、風邪と並んで小児でよくみられる感染症のひとつです。
多くの子どもが年に1回以上、胃腸炎にかかることがあると言われています。

胃腸炎は主にウイルスによる、嘔吐と下痢を主な症状とする病気です。
ほとんどの場合はウイルスが原因ですが、細菌や原虫などが原因となることもあります。

胃腸炎の多くは軽症で、ホームケアにより改善します。
しかし、ときに脱水や低血糖などで入院を要することもあります。
特に夏の時期は、嘔吐や下痢の回数が多くなると、脱水が心配になる保護者の方もいらっしゃるでしょう。
何回嘔吐や下痢をしたら受診をしたらいいか?といった目安も知りたいと思うかもしれません。

そこで今回は、胃腸炎について解説します。

目次

胃腸炎とは

UpToDateでは、胃腸炎を以下のように定義しています(1)

便の緩さを伴う排便回数の増加によってしばし定義される。発熱、嘔吐、腹痛はあってもなくてもよい(※筆者訳)。

なお、排便回数の増加とは、
24時間以内に3回以上の軟便あるいは水様便
子どもの通常の1日の排便回数を2回以上超える軟便あるいは水様便

この定義で着目すべき点は、胃腸炎の定義として嘔吐よりも下痢を重要視している点です。
実際に、嘔吐・腹痛を伴う疾患は多くありますが、急性の下痢があればほぼ胃腸炎と考えてよいと思われます(2)

胃腸炎の原因

胃腸炎の原因はほとんどがウイルスです。
有名なものとしては、ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなどがあげられます。
なお、これらのウイルスには迅速検査が存在します。

ウイルスの種類潜伏期間季節症状特徴
ロタウイルス1-3日3-5月嘔吐 2.6日
下痢 5.0日
1-2日持続する嘔吐に水様下痢が3-8日持続する
ノロウイルス12時間-2日11-12月嘔吐 0.9日
下痢 2.6日
強い嘔気と水様下痢が特徴
24-60時間ほど持続する
乳児では嘔吐がなく、下痢が主体となることも
アデノウイルス3-10日季節性なし嘔吐2日ほど
下痢 8-12日
下痢が主体。風邪症状(咳、鼻水)を伴うことも
胃腸炎の原因となる主なウイルス
引用:小児感染症のトリセツ REMAKE 金原出版

ノロウイルス

ノロウイルスは、冬の胃腸炎の主な原因です。
ロタウイルスのワクチンの普及により、ノロウイルスは5歳未満の小児におけるもっとも一般的な胃腸炎の原因です。

症状は、ほかのウイルスに比べて嘔吐が多く、下痢が重度となることは一般的に多くありません。

ノロウイルスは環境において安定であり、60℃の加熱や凍結、アルコール消毒に耐性があります
そのため、ノロウイルスの感染対策には次亜塩素酸などによる消毒が必要になります。

ロタウイルス

ロタウイルスは、かつて5歳未満の小児における重度の胃腸炎のもっとも一般的な原因でした。
国立感染症研究所によれば、5歳までに世界中のほぼ全ての児がロタウイルスに感染するといわれています。
日本では、2011年にロタウイルスのワクチンが承認され、2020年より定期接種となりました。

症状としては、下痢が主体であり、嘔気、嘔吐、発熱、腹痛などもみられます。下痢は白っぽい色と、酸味の強い匂いが特徴です。
合併症としては、胃腸炎関連けいれん、脳炎、脳症などがあります。

ロタウイルスも、ノロウイルスと同様アルコール消毒は無効です。

ロタウイルスは感染を繰り返すごとに軽症化するため、初感染で最も症状が重くなります。
ロタウイルスワクチンは弱毒生ワクチンであり、接種することで重症化が予防できます。

アデノウイルス

アデノウイルスによる胃腸炎は、ノロやロタと違い特徴的な所見はありません。
ただし、非常に安定なウイルスのためアルコール消毒であれば2回清拭が原則で、80%のアルコールでは10分以上の消毒時間が必要です。
次亜塩素酸も有効です。

胃腸炎の受診の目安

胃腸炎の症状としては、最も重要な下痢のほかに、発熱、腹痛、嘔吐などがあります。

胃腸炎における危険信号として、日本小児救急医学会による子どもの腹部救急診療ガイドライン 2017には、以下のような徴候があげられています。

日本小児救急医学会 エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン 2017

胃腸炎における危険信号(Red Flag)
引用文献:子どもの腹部救急診療ガイドライン 2017

重症脱水の徴候

脱水が進行すると、身体に症状があらわれます。
わかりやすいものとしては、目が落ちくぼんでいる、手足が冷たいなどでしょうか。
なお、網状チアノーゼとは、皮膚表面に血管が紫色に浮かび上がることをいいます。

表にはありませんが、爪を押して色の戻りを見るという方法もあります。

脱水の発見方法
引用:素早く見つけて、すぐ対策! 脱水症&熱中症 経口補水液 OS-1
https://www.os-1.jp/dehydration_heatstroke/dehydration_heatstroke03/

脱水が進行する恐れがある

「持続する嘔吐」はやや曖昧な表現ですが、UpToDateでは以下を「持続する嘔吐」としています(3)

持続する嘔吐
・新生児…12時間以上
・2歳未満…24時間以上
・2歳以上…48時間以上

裏を返すと、嘔吐3日目は胃腸炎以外の可能性があると考える必要があります。

「大量の排便」については、10回以上の下痢は重症となりやすいという報告があります(4)

高リスクの患者背景

糖尿病や腎不全、先天性代謝異常症など、基礎疾患を持っているお子さんは、胃腸炎による嘔吐下痢などにより体調不良を起こしやすいおそれがあります。

また、生後2ヵ月未満のお子さんは重症化しやすく、注意が必要です。

胃腸炎以外の可能性がある

こちらに書かれている症状は、胃腸炎以外の可能性を示唆するものです。

生後3ヵ月未満の38℃以上の発熱は、重症な細菌感染症の可能性があります。
詳細は以下の記事をご参照ください。

黄色や緑色の嘔吐は、腸閉塞を示唆する症状です。
胆汁性嘔吐といい、胃よりも先の小腸、大腸に閉塞点がある場合にこのような色の嘔吐が起こります。
また、血性嘔吐(血の混じった嘔吐)は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの病気が疑われます。

反復する嘔吐の既往は、周期性嘔吐症を疑うものです。
悪心、嘔吐、腹痛といった症状を定期的に繰り返す病気です。
発熱や下痢がないこと、症状が周期的であることなどから胃腸炎と区別します。

腹痛がとても強い場合は、なんらかの緊急疾患の可能性があります。 
ただし、痛がり方の程度は主観的な指標のため、判断が難しいことも多いです。  

右下腹部痛、特に心窩部(みぞおち)から右下腹部にうつる痛みは虫垂炎を疑う症状です。
虫垂炎は盲腸とも呼ばれる病気で、時に手術が必要となることもある病気です。

血便黒色便は消化管出血を疑う所見です。
また、血便は腸重積症という小児特有の病気を疑うきっかけになる症状です。                                                                                                                                                     

胃腸炎の治療

経口補水療法

胃腸炎に対して、特別な治療はありません。
ロタウイルス、ノロウイルスなど検査が存在するウイルスに対しても、個別の抗ウイルス薬は存在しません。

治療の中心は経口補水療法、すなわち脱水の予防もしくは治療のために、経口補水液を用いて水分と電解質(ミネラル)を摂取する方法です。

経口補水療法は、かつてコレラが大流行した1830年代から始まったものです。
現在、塩分、糖分を含む水分はより吸収効率が上がることがわかっています。

引用:https://www.os-1.jp/dehydration_heatstroke/dehydration_heatstroke05/

CDC(米国疾病対策予防センター)には、経口補水療法について以下の7原則をあげています(5)

経口補水療法の7原則
①経口補水療法には、経口補水液が用いられるべきである
②経口補水療法は、迅速に行われるべきである(例えば3-4時間以内に)
③脱水が補正されたらすぐに、食事を再開すべきである
母乳栄養は継続すべきである
⑤人工乳の場合ミルクを薄める必要はなく、特別なミルクも通常は不要である
⑥今後下痢で失うかもしれない水分を補うために、追加の経口補水液を飲むべきである
⑦不要な血液検査や薬物治療は行うべきではない

経口補水液については、以下の熱中症の記事もご参照ください。

具体的な水分摂取方法は、大塚製薬の作成したフライヤーが参考になります。
ポイントは、「少量をこまめに飲ませる」です。
のどが渇いたからといって一度に大量に飲むと、お腹への刺激となって嘔吐や下痢を誘因するかもしれません。

お子さまが吐いたら・下痢をしたら 大塚製薬

経口補水療法のやり方
引用:お子さまが吐いたら・下痢をしたら 大塚製薬

食事

脱水が改善したら、すぐに食事を再開してよいとされています。
いわゆる「消化のいいもの」を中心に食べると良いでしょう。
具体的には、①水分の多いもの(おかゆ、うどんなど)②脂肪分の少ないもの(白身魚、ひれ肉など)③繊維質の少ないもの(柔らかく煮た根菜類、葉物野菜など)、などです。

引用:小児科臨床 2016;69(6):1123-1131
消化のいいもの・悪いもの

整腸剤

整腸剤、医学的にはプロバイオティクスと呼ばれる薬剤です。ビフィズス菌などの、いわゆる善玉菌と呼ばれる腸内細菌群です。

2010年のコクランレビューでは、『整腸剤は急性下痢症の期間のは下痢の症状期間の短縮と排便回数の低下に明確な効果がある』となっていましたが、2020年の最新のコクランレビューでは『整腸剤の効果は定かでない』となっています(6)

一方で、整腸剤によるデメリットは特にありません。添付文書にも副作用の記載がないほどです。
胃腸炎の治療に必須の薬剤ではないと言えますが、飲めるのであれば飲んでもよいといっていいかもしれません。

五苓散

五苓散は漢方薬の一種です。
二日酔いに用いられたり、市販の胃腸薬にも含まれていたりします。

徐々にエビデンスは集まってきていますが、小児急性胃腸炎診療ガイドラインでは推奨されるに至っていません。

制吐薬(吐き気止め)

小児急性胃腸炎診療ガイドラインでは、『有効とする報告もあるがエビデンスレベルは高くなく一律に使用する必要はない』としています。

小児でよく用いられるのはドンペリドン(ナウゼリン)、メトクロプラミド(プリンペラン)です。特にナウゼリンは坐剤があるため、吐き気があっても使いやすいと言えます。

ただし、これらの制吐薬は錐体外路症状(手の震えなど、運動神経の障害による症状)や心電図異常といった副作用があり、注意が必要です(7)

止痢薬・止瀉薬(下痢止め)

小児急性胃腸炎診療ガイドラインでは、『止痢薬・止瀉薬の使用は推奨されない』としています。
ロペラミド(ロペミン)、ケイ酸アルミニウム(アドソルビン)、タンニン酸アルブミン(タンナルビン)などが該当します。

海外の既存の全てのガイドライン(WHO、NICE(英国)、ESPGHAN(欧州)、CDC(米国)、WGO)において、止瀉薬は有効性のエビデンスに乏しく、副作用の方が大きいため使うべきでないとされています。

たとえば、ロペミンにはイレウス(腸閉塞)、傾眠傾向、体温低下などの副作用が報告されています(エビデンスに基づいた小児急性胃腸炎診療ガイドライン)。
特に、低年齢ほど副作用は出やすく、重度の副作用がみられたのはすべて3歳未満でした。

また、下痢止めは病原体の排泄を遅らせるという意見もあります(9)

まとめ

今回は、小児の胃腸炎についてまとめました。

胃腸炎の治療の中心は、経口補水療法です。
塩分、糖分を含んだ飲料(経口補水液など)を、少しずつこまめに飲むことが重要です。

また、薬物治療についてはエビデンスの強いものがほとんどないというのが現状です。
特に下痢止めに関しては副作用が大きく、低年齢では使用すべきではないでしょう。

経口補水療法をうまく活用できれば、胃腸炎による受診や入院が減らせるかもしれません。

胃腸炎のまとめ
・3日続く嘔吐、1日10回以上の下痢は要注意
・胃腸炎のときは、水分・糖分を含む液体(経口補水液など)を少しずつこまめに飲む
・脱水がおさまったら食事はすぐに再開してよい
・薬物治療は補助的なもの、下痢止めは基本的に使わない
・ロタウイルスワクチンは接種しましょう

参考文献

  1. UpToDate Acute viral gastroenteritis in children in resource-rich countries: Clinical features and diagnosis
  2. 子どもの診かた・気づきかた 岡本光宏・著、じほう、2021、p150-154.
  3. UpToDate Approach to the infant or child with nausea and vomiting.
  4. Med Arch. 2014;68:304-307.
  5. Managing acute gastroenteritis among children; oral rehydration, maintenance, and nutritional therapy CDC, 2003
  6. Probiotics for treating acute infectious diarrhoea. Cochrane Database Syst Rev, 12:CD003048, 2020.
  7. エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン 2017 p33
  8. エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン 2017 p32
  9. 小児科診療 2014;77:1389-1393.
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この記事を書いた人

大学病院の小児科に所属する、現役小児科医です。
小児科医としての臨床経験を生かして、エビデンスに基づく情報発信をしています。
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