誤飲は小児の事故の中でも、頻度の高いものです。
タバコ、磁石、ボタン電池など、原因は多岐にわたります。中には、緊急を要する異物もあります。
病院を受診するまでの事態ではなくても、お子さんの誤飲事故を経験したことのある方は多いでしょう。
誤飲は家庭内の事故でも頻度が高く、特に窒息は命にも関わるため、ぜひこの機会に窒息事故の対応および予防策について知識を整理しましょう。
誤飲の現状
小児の年齢別死因
小児の死亡原因の中で、不慮の事故はいずれの年齢においても死因の上位です。
第1位 | 第2位 | 第3位 | |
---|---|---|---|
0歳 | 先天奇形等 | 呼吸障害等 | 乳幼児突然死症候群 |
1-4歳 | 先天奇形等 | 悪性新生物(腫瘍) | 不慮の事故 |
5-9歳 | 悪性新生物(腫瘍) | 不慮の事故 | 先天奇形等 |
10-14歳 | 自殺 | 悪性新生物(腫瘍) | 不慮の事故 |
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai21/index.html
不慮の事故の内訳
不慮の事故の詳細な内訳をみると、0歳では窒息、1歳以上では交通事故がもっとも多くなっています。
0歳での窒息については、SIDSの記事もあわせてご参照ください。
誤飲の分類
誤飲は、大きく分けて気道異物と消化管異物に分けられます。
飲み込んだものが、気管や肺などに入ってしまうことを気道異物、食道、胃、腸などに入ってしまうことが消化管異物といいます。
気道異物
年齢:3歳以下に多く、豆類・ナッツ類が危険
気道異物は、比較的低年齢の児に起こりやすい事故です。
年齢の中央値は1歳で、84%が3歳以下で起きています(1)。
また、原因物質は食物が多く、特に豆類・ナッツ類が約75%を占めます(2)。
症状:不明瞭で、気づかれるまでに時間がかかることも
気道異物の症状は、咳嗽(61.6%)、喘鳴(45.5%)、呼吸困難(17.0%)などがありますが、症状のみからでは風邪、肺炎、クループ症候群などの呼吸器感染症との見分けがつきにくいことがあります。
実際に、診断に1週間以上を要した症例が14.4%と決して少なくありません。
診断の根拠となったのは、エピソードが68.8%、身体所見が51.8%と、検査以外で診断がつく例が多いようです。
気道異物の予防
アンケート調査からわかる現状
前述のアンケート調査では、ピーナッツが気道異物事故の原因となることを知らなかった保護者は20%に上りました(2)。
また、50%の保護者が「3歳になるまでピーナッツを与えてはいけない」ということを知りませんでした。
対策① 5歳までは豆類を与えない
消費者庁では、こどもが5歳になるまで豆類は与えないようにと啓発しています。
Vol.580 硬い豆やナッツ類は5歳以下の子どもには食べさせないで!
対策② 「ながら食べ」をしない
歩きながら、笑いながら、泣きながら食べていると、誤飲が起こりやすくなります。
食べているときは姿勢を良くし、こどもが泣いているときには食べ物を与えないようにしましょう。
対策③ 4歳まではブドウ、ミニトマトなどは1/4に切る
日本小児科学会より、ブドウやミニトマトは1/4カットすることが提唱されています。
手間にはなりますが、安全のためにはご家庭・園などでの配慮が必要です。
気道にものが入った時の対応
もし、気道にものが詰まってしまった場合の対応について、消費者庁のサイトでまとめられています。
幼児の対応:背部叩打法と腹部突き上げ法
1歳以上の幼児には、まず「背部叩打法」を行い、異物が除去できなかった場合は「腹部突き上げ法」を行います。
<背部叩打法(はいぶこうだほう)>
幼児は子どもの後ろから片手を脇の下に入れて、胸と下あご部分を支えて突き出し、あごをそらせます。片手の付け根で両側の肩甲骨の間を強く迅速に叩きます。
<腹部突き上げ法(ふくぶつきあげほう)>
幼児は、後ろから両腕を回し、みぞおちの下で片方の手を握り拳にして、腹部を上方へ圧迫します。
乳児の対応:背部叩打法と胸部突き上げ法
1歳未満の乳児には、「背部叩打法」と「胸部突き上げ法」を数回ずつ交互に行いましょう。
<背部叩打法>
乳児は片腕にうつぶせに乗せ顔を支えて、頭を低くして、背中の真ん中を平手で何度も連続して叩きます。
<胸部突き上げ法(きょうぶつきあげほう)>
片手で体を支え、手の平で後頭部をしっかり支えます。心肺蘇生法の胸部圧迫と同じやり方で圧迫しましょう。
気道異物の治療
病院での治療としては、マギール鉗子や気管支鏡といった器具での除去が行われます。
前述のアンケート調査では、全112症例のうち、自力で吐き出すことができた症例が11例、摘除術が施行された例が101例となっています。
異物が気道に入った場合、多くのケースで摘除術を要しています。
しかし、摘除術が行えるのは専門施設に限られるため、場合によっては緊急搬送などが必要となることもあります。
まとめ
気道異物は、3歳以下、特に1歳前後に好発する事故です。
原因は豆類やナッツ類が多く、全体の75%を占めます。
対策として、5歳以下には豆類・ナッツ類をそのまま与えないこと、ながら食べをしないことなどがあげられます。
気道に異物が入ると、多くの場合で気管支ファイバーなどを用いた摘除術が必要となります。
参考文献
- 小児の気道異物の現状と予防 小児耳鼻咽喉科 2018年39巻3号p219-222
- 日本小児呼吸器学会雑誌 2018;29(1)114-121.
- Vol.580 硬い豆やナッツ類は5歳以下の子どもには食べさせないで!
- もしもの時の「応急手当方法」
- 食品による窒息 子どもを守るためにできること 日本小児科学会