やけどは、熱いものに触れたり、熱湯を浴びたりすることで生じるケガです。
高温により、皮膚や粘膜が損傷したり、炎症が起こったりすることで痛み、赤み、水ぶくれなどの症状がおこります。
やけどの原因となるものとしては、高温の固体(調理器具など)、液体(熱湯など)、気体(湯気など)があります。また、火災や爆発なども原因となります。
特殊な例としては、薬品による化学熱傷、家電製品や落雷などによる電撃傷、放射線を浴びることによる放射線熱傷などがあります。
小児では、特に液体による熱傷がもっとも多く、8割以上が液体が原因となります。
どのようなケースでやけどが起こるのかを知ることで、事故の予防につながります。
また、やけどは初期対応が重要です。
やけどの多くは家庭で起きるため、受診をするまでの間にどのような処置をすればよいかは知っておく必要があります。
今回は、やけどの原因、対応、予防について解説します。
やけどの基本知識
やけどとは
やけどとは、皮膚や粘膜に高温のものが接触することで皮膚や粘膜が傷つくことをいいます。
軽いものから重症なものまでありますが、大人と比べて小児では皮膚の薄さなどの影響で重症化しやすい傾向があります。
やけどの原因
やけどの原因となる物質としては、以下のようなものがあげられます。

この中でも、小児では熱い液体によるやけどが多いという特徴があります。
やけどで入院した患者さんのうち、液体が原因の割合は15歳以下では82%という報告があります(1)。

具体的にどのようなものが原因となっているかについては、東京消防庁の報告による0-5歳児のやけどの原因TOP10を見るとわかります。

やけどの好発年齢
やけどは0歳、1歳にもっとも多い(2)です。また、この年齢のやけどは中等症以上のケースの割合も多くなっています。
これは、立ったり歩いたりしはじめることで、想定されていなかった原因でのやけどをすることがあるからではないかと思われます。
また、6歳未満では高温液体によるやけどが多く、6歳以上では花火や家事など直接的な火によるやけどが多い特徴があります(2)。
・やけどは0歳から1歳に多い
・6歳未満は熱い液体によるやけど、6歳以上は火(コンロ、花火、火事など)によるやけどが多い
子どもはやけどになりやすい
子どもは大人に比べてやけどになりやすい傾向があります。
それには、以下のような理由があります。
皮膚が薄い
子どもは大人に比べて、皮膚が薄いです。
皮膚が薄ければ、その分皮膚の深くまでやけどする時間は短くなります。
Ⅱ度熱傷になるまでの時間は、成人では54℃で30秒なのに対して、小児では10秒という報告があります(1)。

熱いものを避けられない・身を守れない
小さい子どもは、熱いものがあることを察知することができません。
ポット、ストーブ、鍋やフライパン、炊飯器など、大人であれば熱いとわかっているものでも触ってしまいます。

テーブルの上にある熱いものが入ったコップやポットを、クロスを引っ張ってこぼしてしまうケースもあります。
また、子どもは熱いものに触れた際にとっさに手を引いたり、服を脱いだりすることができません。
小さい子どもでは、熱いものに触れたときにびっくりして固まってしまうことがあることがわかっています。
やけどの症状
やけどの症状は、やけどの重症度によって変わってきます。
やけどの重症度は、どのくらいの深さまで皮膚組織の損傷が起きているかによって決まります。
やけどの分類
やけどは、その深さによりⅠ度、Ⅱ度、Ⅲ度に分類されます。
Ⅰ度熱傷…表皮のみの損傷
Ⅱ度熱傷…真皮までの損傷
Ⅲ度熱傷…皮下までの損傷

日本形成外科学会
Ⅰ度熱傷の場合
Ⅰ度熱傷は、表皮だけが傷害されている状態です。症状は、皮膚の赤みと痛みだけで、基本的には痕を残さず治ります。
Ⅱ度熱傷の場合
Ⅱ度熱傷は、真皮まで傷害されている状態です。水疱(水ぶくれ)ができていたら、Ⅱ度熱傷となります。水ぶくれの底が赤色の場合は浅達性、底が白色の場合は深達性です。
浅達性の場合は1-2週間で治癒し、痕になることはあまりありません。
深達性の場合は、治るまでに3-4週間かかり、痕になったりケロイドになることもあります。
Ⅲ度熱傷の場合
Ⅲ度熱傷は、皮膚層全体が傷害されている状態です。皮膚は白色や黒色に変色し、痛みもないことが多いです。水ぶくれもできません。
治るまでには1-3ヶ月かかり、植皮術(皮膚の移植)が必要となることもあります。

日本皮膚科学会 熱傷診療ガイドラインより筆者作成
水ぶくれがあったら病院へ
Ⅱ度以上の熱傷は、病院を受診することが望ましいです。
水ぶくれがあった場合、Ⅱ度以上の熱傷となりますので応急処置を行ってから病院を受診しましょう。
水ぶくれがあったら、応急処置をしてすぐに病院を受診しましょう
やけどと体表面積 ~5の法則~
やけどは、どのくらいの範囲で起きているかというのも重要です。
広範囲でやけどしていると、体液がやけどの部分から染み出してしまうことがあるためです。
やけどの体表面積の簡単な計算方法として、5の法則というものがあります。
これは、下図のように幼児では腕、足を10%、おなか、背中、顔を20%とする計算方法です。

この計算方法で、10%を超える範囲のやけどがあった場合は緊急性があるため、救急車を呼びましょう。
10%以上の範囲のやけどがあったら、救急車を呼びましょう
低温やけど
やけどは、必ずしも高温のものだけが原因で起こるわけではありません。
低温やけどと言って、短い時間であれば触ってもやけどしない温度のものでも、長く接することでやけどになることがあります。
Ⅲ度熱傷に至るには、大人の場合ですが68℃では1秒、51℃でも3分、48℃でも5分という報告があります(3)。
やけどの応急処置
1. 流水で20分冷やす
やけどの深さは、温度と接触時間で決まります。
そのため、まず大事なのは冷やして温度を下げることです。
冷やす時間は年齢、やけどの部位・範囲によりますが、最低5~10分は冷やしましょう。流水による20分間の冷却で植皮術が必要になるリスクが減少したという報告があります(1)。
なお、氷水は冷やしすぎになってしまう恐れがあるため、使用しないようにしましょう。
全身のやけどの場合は、濡れたタオルで体をくるみ、その上から乾いたタオルを巻いて保温します。

やけどの初期対応
流水で最低5~10分、できれば20分冷やす(✖氷水)
小さいお子さんは冷やしている間の低体温に注意
2. 体を保温する
やけどを冷やす際、特に小さいお子さんでは低体温になってしまうことがあります。
やけどを冷やす際、空調やかけものなどで体を温めるようにしましょう。
3. 服は脱がさない
やけどを冷やす際に服を脱がそうとすると、一緒に皮膚がはがれてしまうことがあります。
そのため、やけどを冷やす際は服は脱がさず上から冷やしましょう。
4. 水ぶくれは破かない
水ぶくれは、破かずにそのまま受診しましょう。
破いてしまうことで、感染のリスクとなります。やけどの部位は皮膚バリア機能が低下して、感染が起こりやすくなっています。
やけどの症状別の緊急度
救急車を呼ぶ
救急車を呼ぶべきやけどは、以下のような症状です。
・Ⅲ度熱傷
皮膚が白くなっている、もしくは黒く焦げている場合はⅢ度熱傷です。緊急の処置が必要となるため、救急車を呼びましょう。
・10%以上の範囲のやけど
体の表面積の10%以上の範囲のやけどでは、体液が滲出してしまったり、体温が奪われたりといったおそれがあるため救急車を呼びましょう。
・顔のやけど
顔のやけどは、痕を残さないための迅速な処置のため、また気道熱傷(喉や気管のやけど)のリスクがあるため、救急車を呼びましょう。
救急車を呼ぶべき症状
・Ⅲ度熱傷(皮膚が白くなっている、または黒くなっている)
・10%以上の範囲のやけど(腕全体、足全体、おなかや背中の半分以上)
※やけどの範囲については上記参照
・顔のやけど
ただちに受診
ただちに受診すべき症状は以下のような症状です。
・手足の指のやけど
手足の指のやけどは、皮膚がくっついてしまうおそれがあるため、ただちに受診しましょう。
・陰部のやけど
陰部のやけども、皮膚がくっついてしまうおそれがあるため、ただちに受診しましょう。
・水ぶくれ
水ぶくれはⅡ度熱傷の症状であり、痕が残るおそれがあるため、ただちに受診しましょう。
ただちに受診すべき症状
・手足のやけど
・陰部のやけど
・水ぶくれ
診療時間内に受診
以下の症状の場合は、診療時間内に受診しましょう。
小児科、もしくは可能であれば皮膚科か形成外科の受診がおすすめです。
診療時間内に受診すべき症状
・皮膚が赤くなっているだけ
・範囲がせまい
やけどの予防策
やけどは、予防が重要です。
どのような状況でやけど事故が起こるのかを知ることで、やけどをしないような環境整備を行うことができます。

給湯温度を50℃以下に
前述の通り、50℃以上の温度では低温でもやけどの可能性がでてきます。
そのため、給湯温度を50℃以下に設定しておくことで、蛇口をひねった際のとっさのやけどを予防できます。
手の届く範囲に熱いものを置かない
机の上やコンロなど、こどもの背より高い場所であれば手が届かない、とは限りません。
年齢別の手が届く範囲は以下の図の通りです。

消費者庁 子どもの手の届くところに熱いお湯などを置いていませんか
たとえば、
・子どもは1歳で身長が75cm
・テーブルの高さが80cm
であれば、テーブルから10cm以上奥に置けば手は届かないということになります。
ベビーゲートを置く
家庭内でやけどの起こりやすい場所は、キッチン、そして暖房器具の周囲です。
キッチンの入り口や、ストーブなどの暖房器具の周囲にベビーゲートを設置することで、熱いものに直接触れる機会を減らすことができます。
まとめ
やけどは、乳幼児を中心に家庭内で起こりやすい事故です。
中等症以上(Ⅱ度以上)のやけどは、痕を残したりするおそれもあるため、迅速な対応が必要となります。
やけどをしてしまった場合は、すぐに流水で冷やすことが肝心です。
そして、程度によっては救急車を呼ぶ必要があることも覚えておきましょう。
どのような状況でやけど事故が起こるのかを知ることで、やけどの予防を行うことができます。
上であげたような事例をもとに、ご自宅でのやけど事故予防を見直す機会としていただけたら幸いです。
参考文献
- 小児内科 2021;53(増刊号):1066-1071.
- 小児内科 2024;56(5):756-760.
- チャイルドヘルス 2023;26(4):39-42.